十六文日記
朝練。
学生の部活動特有の響き……そう思っていた。
水泳の朝練をしているプールがあると誘われて行ってみれば、アラウンド還暦――アラカン――のスイマーばかりの異空間がそこにあった。
朝6時から7時30分頃まで約一時間半の早朝練習。
冬季ならば、まだ夜明け前に始まり、練習中に夜が明ける時間帯。
学生の部活動ならば、参加選手はほぼ例外なく眠い顔をして、あくびでもしながらやってくるはず。
ところが、アラカンのスイマーたちは、ほぼ例外なくしゃっきりした顔でやってくる。
もしや……彼らにとって、これは朝練ではないのではないか?
アラカンの人たちにとって、これは通常の生活時間帯であり、通常の練習なのではないか?
年をとると人間は長時間眠っていられなくなり、夜遅く床に入っても、早朝目覚めてしまうという。
彼彼女たちにとって普通に起きて普通に練習に来たら、夜明け前だった……あり得べき話である。
とはいえ、アラカンであっても、冬の朝は寒いだろうし、暗い中を暖かく明るい家から外へ出るのがおっくなのは若い学生と変わらないはず。
そこにあるのは、誘惑を振り切り、己の弱さを乗り越える克己心。
スポーツを始めると、まず肉体が鍛えられていく。
そこからさらに鍛え続けていくと、いつしか精神が鍛えられていく。
困難な条件、苦しい課題へあえて挑んでいくスポーツ選手のハートは、学生の部活動だろうが、還暦のマスターズサークルだろうが変わらない――そう感じた朝だった。